Eの壁

FS-4Pを買い、はじめに練習したのはブルーハーツの「夢」だった。この曲がウクレレ初心者の練習に適していたとか、ウクレレらしい音色を出せる曲だったとかそういう要素は一切無い。ただたまたま買った教本に自分の好きな楽曲が載っていたから弾いた、そんだけである。だが、この選曲はしばらく私を苦しめることになった。
誰しも一度は「ギター弾けるようになりたい」と思い手にとってみる。ギターを持って鏡の前に立ってみる。だが、大抵の人は三日坊主で諦めてしまう。なぜかというと”F”というコード(ファ・ラ・ドの和音)をきれいに弾く事ができないからである。”F”は明るい曲なら大抵入っているコードなのだが、左手の押さえ方が結構難しいのだ。そんなわけで多くの人はFが弾けずに挫折していってしまう。表向きは「あー指が痛い」「安いギターじゃ乗り気しない」「大体6本弦の楽器を5本の指で弾くなんてナンセンス」とか言い訳しつつみんなやめていくのだが、本当の理由はFが押さえられないからなんである。あまりにもFで挫折する人が多いため、ギター演奏最初の難関として「Fの壁」などと言われるほどである。
さて、ウクレレウクレレにもギターのFに匹敵する難関コードがある。
それは”E”。押さえ方は下記の通り。
E
押さえ方は自由だけれど、多くの教本では上から人差し指、小指、薬指、中指の順に押さえるよう書いてある。4つの指を一度に使わなければならないというのが非常に面倒。しかもウクレレは弦と弦の間が狭いから、3本の指で同じ列の弦を押さえるのはかなり窮屈なのだ。大抵、一本の弦の音がうまく出ない。
さらに厄介なのは、他の一般的なキーとは左手の構えが違う点である。”A"とか”F"だと
FA
のような押さえ方なので、上から人差し指、中指で押さえればいい。結果手のひらは地面に対し水平になる。ところが”E”では手のひらが地面に対し垂直になってしまう。だから
AEAE
なんてコード進行があると手首をねじったり戻したりしなければならず、非常に時間がかかるのである。難しい。
で、ブルーハーツの「夢」はこの”E”を多用する曲だったのだ。しかもアップテンポ。この曲を通して「Eの壁」が私の前に立ちはだかったのである。乗り越えるのは一年近くかかってしまった。Eを使わない他の曲だったらどんどん覚えていけただろうに、Eのおかげでしばらくは「夢」しか練習しなかったのである。とんでもない遠回りだった。
ただ、あれから何年もたって思う。やっぱり一番初めに練習するのは自分の好きな曲がいいよな、と。そうじゃなきゃ続かないもの。