ひどい冗談

きよしろー、えー、きよーしろう！
　あなたとの思い出に、ろくなものはございません。突然呼び出して、知らない歌を歌わせたり。なんだか吹きにくいキーのハーモニカを吹かせてみたり。レコーディングの作業中にトンチンカンなアドバイスばっかり連発するもんで、レコーディングが滞り、その度にわれわれは聞こえないふりをするので必死でした。

　でも今思えば、全部冗談だったんだよな。うーん。今日も「清志郎どんな格好してた？」って知り合いに聞いたら、「ステージ衣装のまま寝転がってたよ」っていうもんだから、「そうか、じゃあおれも革ジャン着ていくか」って来たら、なんか、浮いてるし。…清志郎のまねをすれば、浮くのは当然。でもあなたは、ステージの上はすごく似合ってたよ。ステージの上の人だったんだな。

　一番最近会ったのは、去年の１１月。それは、ザ・フーの来日公演で、武道館の。その時、あなたは客席の人でした。ステージの上ではなくて。沢山の人が清志郎にあこがれるように、あなたはロックンロールにあこがれていました。僕もそうです。

　そんな一観客としての観客同士の共感を感じ、とても身近に感じた直後、あなたはポケットから何かを出されて、それは、業界のコネをフルに生かした、戦利品とでも言いましょうか、ピート・タウンゼントの使用するギターのピックでした。ちっともあなたは観客席の１人じゃなかった。ぼくがあまりにもうらやましそうにしているので、２枚あったそのうちの１つを僕にくれました。…こっちじゃねえや（ポケットの中を探る）…これだ。ピート・タウンゼントが使ってたピックです。

これはもう、返さなくていいね。納めます。ありがとう。一生忘れないよ。短いかもしれないけど一生忘れないよ。それで、ありがとうを言いに来たんです。

　数々の冗談、ありがとう。いまいち笑えなかったけど。はは…。今日もそうだよ、ひどいよ、この冗談は。うん…。なるべく笑うよ。そんでね、ありがとうを言いにきました。清志郎、ありがとう。それから後ろ向きになっちゃってるけど、清志郎を支えてくれたスタッフの皆さん、家族の皆さん、親族の皆さん、友人の皆さん、最高のロックンロールを支えてくれた皆さん。どうもありがとう。どうもありがとう。

　で、あと１つ残るのは、今日もたくさん外で待っているあなたのファンです。彼らに、ありがとうは僕は言いません。僕もその１人だからです。それはあなたが言ってください。どうもありがとう、ありがとう！（遺影に右手を振る）

清志郎さんのことは「ヒロトの好きな音楽」として知った。チャック･ベリーやビートルズやローリングストーンズ、ザ・フー、クラッシュ、ドクター･フィールグッドなどと同じように、ロックンロールとして。だから多分、リアルタイムでRCや23'sやタイマーズを聴いていた人の方が僕よりも思い入れは強いから、清志郎さんについて知ったような顔して書くのはちょっとおこがましい気がする。
けれど弔辞を聞き、ライブでの楽しそうな二人を久しぶりに見返しているうちにひとつだけ書きたくなった。聴く側であっても演奏する側に立っても、ロックンロールファンはファンのままなのだ。
ステージに立って共演しているのに、大歓声の前なのに、なんか街角でミック･ジャガーに会ったファンみたいにきゃあきゃあ興奮して恥ずかしがっている二人。清志郎さんとヒロトですらファンなのだから、ロックンロールの端っこの底辺で「パンク」なんていう最低の音楽を自称してウクレレを弾いているような僕はどうやったってファンだ。清志郎さんは雲の上の存在なのに自分と同じ1ファン。今になってそのことがわかって、ちょっと嬉しくて、悲しい。
昨日今日と風邪を引いて寝込んだけど、少し回復したところでマイクスタンドとアンプを買ってきた。そしたらまたぶり返して今もヘロヘロ状態だ。だけど、満足している。元気になったら思いっきり歌おうと思う。

Remember you.