趣味で熱弁、スノボどん引き

趣味を聞かれ、ウクレレと山登りと答えると大抵「うわージジ臭い」と言われる。
そりゃあね、どっちも中高年に人気の娯楽だからね、そう思うのも仕方ないですよ。とはいえジジ臭いと言われるのは心外なので訂正する。
ウクレレ、ジジ臭くないよ。そりゃあ中高年がよくスクールに通っているけどさ、俺行ったことないんだ。それに俺、ハワイアンはほとんどやらないよ。ウクレレでやるのはロックンロールだよ。えっ?なんでギターじゃないのって?いやいやいやいや、ロックはギターじゃなきゃだめってわけじゃないし、ウクレレはハワイアンしかやっちゃだめってわけじゃないんだよ、楽しければいいんだよ。ビートルズも最初はさ、洗濯板やら手作りベースやら持ち寄ってプレスリーチャック・ベリーの真似をやってたんだよ。スキッフルって音楽やってたんだ。ウクレレでロックンロールをやるのもそんな感じなんだよ。」
と、ここまで話すと、聞いている人の口がぽかーんと開く。「ビートルズも最初は・・・」あたりのくだりで「うわっマニアック」と思われる。ジジ臭くは無いが、オタク臭ムンムンである。みるみるうちに場がスーっと凍りつく。
私はこの雰囲気を打開すべく、山に話を移す。
「山登りだって全然ジジ臭くないって。そりゃあ登っている人は中高年が多いけどさ、俺と一緒に登っている人はみんな若いよ。険しい道を一歩一歩登ってると『生きてる』って感じがするし、登りきったときの達成感が最高なんだ。毎週登ってると季節の移り変わりを感じるし、山菜も採れるし、山の神に感謝だよ」
再び聞いている人の口がぽっかーんと開く。「生きてる感じがする」だの「山の神に感謝」だの、胡散臭さムンムン。「季節の移り変わり」「山菜採れる」で田舎臭さプンプン。私が口を開ければ開けただけますます場が凍り付いていく。
さて、ある宴席でのこと。
同席した女性に趣味を聞かれ、上記のごとく回答したら案の定口をぽっかーんさせてしまった。これではいかんと思い、逆に貴女の趣味を教えていただけないでしょうか、と尋ねると、スノボだよおっさん、おっさんはスノボやるのかよ?との回答。
ははぁ流行のスノボですか、楽しそうですねえ、あいにくながら私はスノボをやらないのです。山登りをやっているためか、どうも雪山というのが苦手なのです、という旨答えたところその女性は、はっ、寒いのが苦手か、この爺が、という冷笑を浮かべ、あ、そう、と昭和天皇のお言葉みたいな返答をしてきた。私が返答に窮していると女性は追い討ちをかけるように、トロイよなあ山登り、歩きだもんなあ、それに山登りは遭難すると迷惑だからよ、捜索に何千万もかかってよ、電車ででっかいリュック背負って傍若無人だし臭いしよ、山でゴミ捨てるしよ、あージジ臭。という内容の言葉を浴びせかけてくる。慇懃無礼なほどのこちらの対応に対しこの仕打ち、とうとう我慢しきれなくなった私は、シャープ兄弟の傍若無人ぶりに堪忍袋の緒が切れた力道山の如く、言葉の空手チョップで猛反撃を試みた。
まず山登りがトロいという点だが、確かに動作はスノボに比べたら格段に遅い、しかしそれは下りでの話。山登りは読んで字の如く山に歩いて登るものである。他方スノボは登ることに関してはからきしダメで、事実貴女達はリフトで運んでもらわないと何も出来ないではないか。遭難について言えば、確かに捜索には莫大な費用がかかるが、スキー場で行方不明者が出た時だって同じ捜査隊が派遣されて金かかってる。それにスキー場の運営費は捜索費用の何十倍もかかっているではないか。それからスノボ客はみんなSUV乗っている。燃費悪いSUVで暖気して重たいスノボ乗っけてスキー場まで何時間もかけていって、地球環境破壊することこの上ない。あとゴミ拾って登る登山者はいても、ゴミ拾って滑降するボーダーは皆無である、云々。
我が空手チョップの効果は絶大、あっという間に完全グロッキーで動かなくなった。女性、じゃなくて場の空気が。フォールに行こうとしたとろで周りの冷たい視線に気付いた私は、そそくさとリングアウトした。
それでも私の趣味はウクレレと山登り。