こんぼこが「あーっ!」と叫ぶことについて

k-matsuさんに呼ばれて飲みに行った。
k-matsuさんは去年まで同じ職場にいた方で、今は海外に赴任している。今週出張で久しぶりに戻ってこられて、せっかくだからって飲みに誘ってもらった。
内心はともかくとして、常に自信に満ち溢れているように見える人だ。直接仕事でやりとりしたことはほとんどないのだけれど、「matsuがいると難しいことでも不安な気持ちにならない。なんとかなりそうな気がする」と先輩社員が言っていた。その通りだと思う。
一度、メールで仕事をお願いしたら、回答が一晩で返ってきた。理路整然とした内容に思わず唸った。
「うわっはっはっはっは」
k-matsuさんは高笑いをする。本人は普通に笑ってるつもりなんだろうけど、周りからは高笑いに聞こえる。それがちっとも嫌味にならない。なんか、生きる力のある人だ。
さっきも書いたとおり、k-matsuさんと直接仕事で接する機会はほとんどない。けれど同じプロジェクトに属していて、時々k-matsuさんの名前を話に聞く、資料で見る。大体重要な課題のところで目にする、音に聞く。その度に私は「すごい人だなあ」と思い、末端ながら同じプロジェクトに参加していることが嬉しくなる。
「おい、巻きタブ、締めをよろしく」
飲み会が終わりに近づいてきた時、誰かが私を指名してきた。折角の機会だ、私は思いの丈をk-matsuさんにぶつけようと口を開いた。
「えーと、ぎっ、今日は本当に楽しいというかあの、ぷろっプロジェクトでk-matsuさんとは全然かかわってなくて、僕はプロジェクトに参加している末端の、もっと活躍すればいいなあって、それで名前が出てくるんですよ時々。時々見ると、あ、名前を時々見ると、ああ、すごいなあって、ま、そういう感じなんで、ありがとうございます」
「はぁ?なんか意味わかんね」k-matsuさんは言った。
「やっぱ巻きタブじゃだめか」指名した先輩がため息をついた。
「うん、うん、言いたいことはよくわかんなかったけど、『何か言いたい』ってのは良くわかった」k-matsuさんがそうフォローすると、べろんべろんに酔っ払ってクダ巻いていたこんたまさんが言った。
「あっ、つまりねーアレだ、何か言いたいっ!何か言いたいんだけど言葉を持ってなくて思わず叫んじゃう赤ん坊みたいな?あっ、あっ、あああーっ!きゃあああーっ!!」
一同が大爆笑した、k-matsuさんの高笑いが酒場に響いた。
私は恥ずかしさのあまり「笹塚夜定食!おかず!ふ〜り〜か〜けぇ!」と叫びたくなったけれど、それじゃあまさしく「思わず叫んじゃう赤ん坊」になってしまうのでやめた。
帰りのタクシーで考えた。
ウクレレを好きになったのは、自分の中のこの「思わず叫んじゃう赤ん坊」の部分をなんとかしたかったからなのかもしれない。事実ウクレレを始めて以降、実生活では大分感情を抑えられるようになった。例えば「死にたい」って思うことが無くなった。「明日は何しよう?」って考えることが多くなった。もともと後ろ向きで未だに後ろ向きだけれど、ウクレレ始める前と後で比べたら25度くらい前を向いてると思う。もしウクレレをやってなかったら、「おかず!ふ〜り〜か〜けぇ!」と叫びながらこんたまさんにボディアタックを見舞って、殴り返され、職場で干されていたかもしれない。でもやらなかった。せっかくk-matsuさんに誘ってもらった席だから。
今日きちんとしゃべれなかったのは、とりあえず日本酒が廻っていたせいにしとこう。よしっ。