サーデクの彼女

鈍行列車に乗っていた。田舎の列車らしくボックス席になっていて、座っている人たちは和気藹々としている。ふと見るとサーデクがいた。
サーデクは学生時代の後輩で、氷川きよし似の細身長身。素朴な性格から来る優しさと研究への熱心さがありながら、素朴ゆえに傷つきやすさと暗さを持った男だった。今時珍しく、フォイエルバッハやカントなどの哲学書を真面目に読んでいて、一方で相当くだらない話もしていた。「くだらない話」がどんな内容だったか書きたいけれど、あまりにくだらかったのか忘れてしまった。ただ、くだらなかったことは確かだが・・・そんな奴だったから私は大好きだった。あまり面倒は見てやれなかったけど、時々アドバイスの真似事のようなものをしたし、成長を聞くのが嬉しかった。
最後に会ったのは前新宿の「しょんべん横丁」で飲んだ時だ。もう1年半前になる。久しぶりだなあ、しかし鈍行列車で見かけるとは奇遇な。
サーデクの肩を叩こうとして、はっとあることに気づき手を止めた。サーデクが顔輝かせて楽しそうに話している。話しかけている先には女性がいた。
思い出した。半年前にメールした時言ってたっけ「俺、彼女ができました。生活に潤いが生まれました」。そうかそうか、この人なのか。なんだ綺麗な人じゃないか。そうかそうか。良かったなあお前。そうか・・・。
声をかけるのをやめ、私は元いた席に戻った。二人の席は午前の陽光で眩しいくらい白くなった。

いい夢だった。失念してしまったけど、今サーデクは語学の勉強でフランスにいるのだろうか?潤いのある生活は今でも続いてるんだろうか?聞いてないからわからないけど、夢の中で見せてくれたような顔で日々生活しているなら、嬉しい。
サーデクよ、幸せに!