瘤取り峠道

土曜出勤でヘッドホンステレオ聴きながら仕事してたら部長がやって来た。あわててイヤホン外す私。

「巻きタブ、おめ、なに遊んでるだっ」
「なっ・・・あ、遊んでねっすよ。給料貰うために今日もここ来て座ってるんすから」
「ばか、座ってるだけなら誰でもできるわぃ。仕事しろっ」
「は、はいっす」
「お前、なんで俺がここ来たかわかるか?」
「へっ、ええと・・・」
「あのな」
「はい」
「珈琲飲もう」

珈琲に誘われたのは同じ課でやはり出勤していた先輩のリチさん、それから新人のみーさん。部長におごってもらい来客用の喫茶で一服する。席に着くと部長から一言。

部「巻きタブ、おめ、どーすんだ」
巻き「ふぇっ?」
部「なあリチ?」
リ「は、はい?」
部「みー、こいつ頼むわ」
み「え?何ですか?」
部「こいつに彼女紹介してやってくれよ。おい巻きタブ、お前も頼め」
巻き「ぅえっ、あっ、あ、お、お願いします」
み「あ、はいわかりました」

15分ほど休んだ後、「あんまり無理すんなよ」と言い残して部長は帰っていった。私たちは事務所に戻り仕事を継続。
しばらく会議資料を作っていたらみーさんが話しかけてきた。

み「あの、巻きタブさん」
巻き「なんだい?」
み「さっき部長に頼まれた件なんですけど」
巻き「え、誰かいるの」
み「はい」
巻き「まじ?まじ?」
み「あの」
巻き「うん」
み「子持ちだけどいいですか?」

はい、仕事になりませんでした。
パソコンの画面に会議資料を映しつつ、何故みーさんが子持ちの友人を紹介してきたか理由を考えてみた。

  • みーさんはその友人ととても仲が良い
  • みーさんはその友人と私が性格的に合うと考えた
  • たまたまその友人を思いついた
  • 常日頃法螺ばかり吹かれて頭にきていたため、みーさんは私をおちょくろうとした
  • 実は子供が私の実の子だった。

どれもあんまり納得しがたい。そこで知り合いの姉御さんに相談してみた。姉御さん曰く、
「それはきっとみーさん、子持ちの人でも巻きタブは受け容れてくれるだろうって考えたんじゃないかしら。あの、全然悪い意味じゃないんだけどね、確かに巻きタブはそういう運命を受け容れてくれる懐の深さがありそうなかんじがするよ」
ますます仕事が手に付かなくなった。なぜか「運命を受け容れる」ってあたりにグッと来た。
まあ理由はともあれ、「巻きタブに彼女を紹介せいと指示される」→「巻きタブの特徴を考える」→「条件に合う知り合いを検索」というプロセスの結果が「子持ちの女性」というのは、我ながら面白い。わはは。笑ってる場合じゃないが。
「よっしゃ、みーさん、会う。会ってみたい」
「え・・ホントですか?」
「俺は嘘はつかんぞ、法螺は吹くけど」
「法螺・・・そういえば確かに法螺吹かれた覚えが」
「嘘はつかーん!行くぞ、子供に玩具買ってくぞ、で、どこ住んでるの」
「隣の県です」
「てことは峠越えるってことか。嘘はつかん。行くぞ。玩具買ってくぞ。うわはははは」
笑ってる場合じゃないが。