子供だましのショウ

見終えた。
チャック・ベリー ヘイル!ヘイル!ロックンロール [DVD]
自他共に認める「ロックンロールの王様」チャック・ベリーの還暦を記念して行われたコンサート。その模様をリハーサル風景、本人・関係者インタビューなどを加えてまとめたドキュメンタリー映画である。1986年発表のものをDVD化。特典影像付き。
主な出演者:チャック・ベリージェリー・リー・ルイス、リトル・リチャード、ボ・ディドリー、キース・リチャーズジョン・レノンジュリアン・レノン、ジョニー・ジョンソン、エリック・クラプトンリンダ・ロンシュタット、ブルース・スプリングティーン、ロバート・クレイ、エタ・ジェイムス・・・
かーっ、なんつー豪華なキャスティング。知ってる人なら痺れまくり、お漏らししまくりの顔ぶれである。
見所紹介。

  • 随所に渡って披露されるチャック・ベリーの天狗っぷり、俺様っぷり、ビジネスマンっぷり。
  • 「チャックのバックバンドを務めたら振り回され放題振り回されて大変だった」という話を嬉しそうに語るブルース・スプリングティーン。
  • ロック黎明期の黒人差別に触れ半狂乱になるリトル・リチャード。彼の意見には共感しつつも狂乱っぷりに思わず苦笑するチャックとボ・ディドリー。
  • リハーサルでチャックに「俺のアンプをいじるな!」と恫喝され、演奏のミスを逐一注意され、怒りが沸点に達しながらもぐっと堪えるチャックファンのキース・リチャーズ。ある意味この映画のハイライト。
  • 古い映像。チャックとの共演に興奮し、はしゃぎまくりながらジョニーB.グッドを歌う生前のジョン・レノン
  • ジョンの映像の後、ステージに息子のジュリアン・レノン登場!この時ばかりは完全にジュリアンの引き立て役に徹するチャック。「ありがとうジュリアン!親父によろしく言っといてくれ。返事は大体わかってるよ」
  • エリック・クラプトン登場。ブルーズ・ナンバーで会場大盛り上がり。
  • アンコール。無意味に巨大なフォードに乗ってステージに再登場するチャック。

全編通しての感想。やっぱロックンロールはいいなあ、みんなチャックベリーが好きなんだなあ。
あとエリック・クラプトンキース・リチャーズが対照的だった。
チャックベリーの天狗っぷりは業界では有名らしく、還暦記念コンサートおよびドキュメンタリー映画の話が持ち上がったとき、誰もプロデュースをやりたがらなかったらしい。そんな状況の中立候補したのがキースだった。曰く「ずっとチャックをサポートしたいと思ってたんだ。この仕事が大変なのはやる前からわかってたさ。でも引き受けた、チャックは俺のヒーローだから」と。漢だなあキース。ま、案の定キースはチャックに怒られ、恫喝され、アゴで使われ、クソだ味噌だ言われ続けるのだが。それでもぐっと堪えるキース。観客や英国貴族をぶん殴ることはあってもチャックには従うキース。還暦コンサートでは皆とお揃いのダブルを着てバックバンドに徹していた。ストーンズでの俺様っぷりからすると、ある意味貴重な映像かもしれない。
一方のエリック・クラプトン。やっぱり彼もチャックが大好きで「カッコよくギターを弾こうとするとどうしてもチャックベリーみたいになってしまうのだよ。ほらこんな風にね」と実演交えながら語っている。コンサートでは終盤に登場、大歓声の中”ウィー・ウィー・アワーズ”を演奏するのだが、はしゃいでいる様子は一切無し。他の出演者がチャックのトリビュート的なパフォーマンスを魅せたのとは対照的に、エリックはどこまでもエリック、どこまでも自分のブルーズを貫き通していた。で、これがまたかっこいいんだ。そんなエリックの姿勢を尊重し敬意を示したのだろうか、チャックはエリックを「Eric Clapton, man of the Blues!!」と繰り返し紹介していた。ジョン・レノンですら「俺の音楽(ロックンロール)に偉大な貢献を残した男」って紹介だったのに。すごいぞエリック。
さて、エリックとキースのどこが対照的だったかというと、チャックに対する姿勢である。二人ともチャックに憧れ、チャックを真似することでロックを始めた点では共通している。しかしエリックが自分の音楽を確立していったのに比べ、キースは相変わらずチャックの真似の延長でカッコつけているだけのような感じがするのだ。ファンからアーティストへと成長したギタリストといつまでもファンのままのギタリスト。だからエリックは頑なに自らのブルーズを奏で、キースはバックバンドで伴奏に徹することになったんじゃないふだろうか。
このDVDを見て、エリックは「本物」だなあと思わされた。一方でキースは「子供だまし」だと感じた。
じゃあキースを嫌いになったか?そんなことはない。なぜならそもそもロックンロールそのものが「子供だまし」だからだ。誰でも弾けるような曲を弾いて、下手な声でがなる。変な格好で踊る。俺は強いぜーと言ってみる。子供だまし以外の何者でもない。第一ロックンロールの「王様」チャック・ベリーからして、ステージにフォードで登場したりケンケン足でぴょこぴょこ跳ねたり演奏サボったり「イェーイ」とか「カモンカモン!」とか叫んだりして喜んでいる60過ぎのおっさんである。これを子供だましといわずになんと言おうか。
そしてそんなおっさんを「俺のヒーローだから」という理由で艱難辛苦に耐えサポートするキース・リチャーズ当時40余歳。映画の最後でキースは語る。
「あのおっさんは本当に面倒がかかる野郎だ。サポートは本当に大変だった。でもなぁ、何故か嫌いになれないんだ。おれはチャックが好きなんだ。この仕事をしてよかったよ。」
阿呆である。
じゃあそんな阿呆なキースを嫌いになれるか?なれない。何故か?うー、わからない。相変わらずケンケン跳びのじいさんに憧れていて、子供だましの音楽をやり続けているわけだが、嫌いになれないんだよなあ。なんでかなあ。
もとい、チャック・ベリー還暦記念コンサートは素敵な子供だましのショウだったと思う。エリック・クラプトンのオーセンティックさが小気味なアクセントになっている。聴くべし。