ロスト・イン・ザ・ロングマウンテン

目の前に人口の藪が立ちふさがっている。切り落とした枝が積み上げられ通り抜けられないようにしてあるようだ。つまり藪の向こうは山道である。藪の下、つまり私がいる場所は道の無い急斜面だ。
なんでこんなとこ来たんだっけ?
山歩きに来て「遊歩道」という標識の小径に入ったところ、20メートルくらい進んだところで舗装道路に出てしまった。その後ほとんど登山道らしきものが無く車と同じ道で登頂してしまったのである。
疲れはあったのだが不満であった。足場をひとつひとつ確かめながら登りたかったのに、藪をかきわけて進みたかったのに。夕べ悲しい気分で寝たから登山道で自分を必死な状態に追い込んで、生きているっていう実感がほしかった。でもこんなアスファルトじゃ・・・。
下山中に小さな山道を発見、おっこれは登山道じゃないか?ちょっと急で狭い道だけど、藪を切った形跡があるから
人の道だろう。そう思いずんずん進む、さらに急な坂、よし行ってみよう、滑り降りよう、ズズズズ。と、ここで気づいたのである。これ道じゃないわ。見上げれば険しい坂。その先には人口の藪の砦。こ、これは・・・。
そんなわけで今、藪の真下にいる。藪の上には人の作った道があり、私のいるこちら側は深い谷である。いやーこりゃ参ったね。進むしかないじゃないか。というわけで藪を掻き分け始めた。太目の木にしがみつき、バキバキと小枝を踏み潰して足場を探り、変なうなり声を上げて一歩一歩。
登った。人の道に出た。ああ、よかった。
安堵だけだった。悲しいことがあったとか刺激が欲しいとか全然関係ない。良かった、道上にいる。
その道は城跡だった。こんなところに城作ったら誰も攻められないよ、あの急斜面からは攻められない。でも城跡の碑には書かれていた、この城は武田信玄が落としたと。すごい、これはすごいことだ。こんな山城攻めろなんていわれたら誰でも嫌だというに決まってる。それを「やれ」と命じ、配下の武将をやる気にさせ、そして落城させてしまう信玄。すげぇな、と思った。
今日も、山に来てよかった。気分が明るくなったのでインド店で春色のジャケートと、車用のクッションを買った。