田中邦衛 ものまねの謎

青大将時代の邦衛

名作「北の国から」の脚本家、倉本聡が新しいドラマに取り組んでいる。フジテレビ「優しい時間」である。
なんとも不満である。何が不満って田中邦衛が出てないのが不満だ。3回も書いたぞ、不満。
北の国から」のスポットは富良野大自然でも純と蛍の成長でもなく、なんてったって邦衛の喋り方である。ん?そう思ってるの私だけか?いやいやそんなことはない。なぜなら誰かが田中邦衛の物真似をする時、ほとんどの場合それは「北の国から」の邦衛の真似だからである。決して「大正漢方胃腸薬」のCMをしていた邦衛でも、「おかっ引どぶ」の邦衛でも、青大将の邦衛でもない。テレビでも身の回りでも、である。ものまねタレントは大抵長靴であらわれ、BGMにはさだまさしの「あーあーあああああーあー」が流れている。それから近所のものまね名人(いるのかどうか知らないけど)も、大抵「ほたるぅ」とか言ってる筈。いるでしょ?そういう人。まあ私も物真似するんだけど。
それにしても不思議である。なぜ邦衛の物真似は玄人も素人も皆「北の国から」なのだろう。なぜみんな邦衛となると「あ〜ぉ、純、とぉさんな、さみぃからよぉ」とか言うのであろう。
ある有名人のものまねが繰返しテレビで行なわれると、巷には「ものまねをものまねする人」が現れる。そしてこの二重のものまねでは大抵決まったフレーズが真似される。ジャイアント馬場の「アポー」しかり、アントニオ猪木の「なんだコノヤロー」しかり。皆同じ真似をするけれど、実際に生前の馬場さんの「アポー」や猪木の「なんだコノヤロー」を聞いたことがある人なんてまずいないんである。「馬場=アポー」という等式が真似する側、それを見る側双方に成り立っているため、かろうじてものまねとして認識されているに過ぎない。そしてこの等式を成り立たせているのは「誰かの真似していた馬場」「誰かの真似していた猪木」の記憶である。
その点関根勤春一番はえらい。双方とも決して「アポー」とも「なんだコノヤロー」とも言わずにものまねを成立させている。春一番なんか、猪木じゃない春一番見たこと無いし。
で、邦衛である。多くの人がやっているのは「邦衛のものまねのものまね」であって「邦衛のものまね」ではないはずだ(私自身は邦衛のものまねを見た後で「北の国から」を見て、ものまねのとおりに邦衛が喋るので大笑いしてしまった口である)。だがどのものまねタレントのものまねを見ても、「あーあーあああああーあー」の鳴っていない邦衛、「あ〜ぉ、純、とぉさんな、さみぃからよぉ」と言わない邦衛、つまり「北の国からの父さんじゃない邦衛」は見たことが無い。邦衛のものまねは完全にデフォルメ化されているのだ。邦衛のものまねには、馬場に対する関根勤、猪木に対する春一番のような、ものまねの原型を作り出した人物が存在しないのである。
これは一体どうしたことなのであろう。謎だ。今後解明していかなければならない。