ザ・ブルー・スプリング

CDを買うようになってもう10年近く経つ。一番初めに勝ったのはボブ・マーリィの「Keep on moving」というマキシシングルだった。忘れもしないヨーカ堂新星堂、でも何でレゲエから入ったのかはよくわからん。
それからしばらくして僕はブルーハーツの虜になった。
当時まだ中学生、馬場さんのチョップが何であんなに強いのか本気で悩んでいた年頃である。もうブルーハーツ全肯定、他は全否定。子供の純粋さは時としてファナティックな排他主義を産むのである。なんつったって「チャートを賑わす人気グループ、クラシック、歌謡曲、こんなの全部音楽なんかじゃない」とまで思っていたからな、恐ろしいわ。
そんなわけで「亀山努(00)のバッティング・マーチ」だった鼻歌も「TRAIN-TRAIN」や「No No No」になった。声変わり中の少年が真似する甲本ヒロトのハスキーボイスは相当へんちくりんだったと思う。もちろんギターもやった。親父の「古賀ギター」を押入れから引っ張り出し、「古賀政男ギター教本」で練習してみた。気分はもちろん真島昌利
そんな折ブルーハーツが解散、ヒロトマーシーザ・ハイロウズなるバンドを結成したとの情報が入る。3rdシングル「スーパーソニックジェットボーイ」は今月25日リリース、少年の心は否応無しに躍った。そして何故か同級生にこの情報をアナウンスする。当然、一同あんぐり。
そんな中、一人の女子がセメントマッチを仕掛けてきた。
「そんなの大したことないよ。もっとすごい人がデビューしたんだから」
「なにおぅ!?誰がいるってんだよ、見せてみなオラ」
突然のイチャモンに少年の心は俄然ストロング・スタイルである。女子はニコニコしながら言った。
「レイジー・ナックだよ」
「れいじぃ・・・?」
「すごいカッコいいんだから!」
参考 http://www.beatmania.net/artist-mawa/filmsukstyle.htm
かくして、少年と女子はそれぞれのCDを貸しあった。そしてどちらがすごいかを「カウントダウンTV」のチャート順位で競い合うことにした。チャートに載るような音楽は嫌いだけど好きなものがチャートに載るのは大歓迎。さすが中学生、どっかの大統領みたいな理不尽さである。
だが少年は重大な点を見落としていた。3rdシングル「スーパーソニックジェットボーイ」は既出アルバム「ザ・ハイロウズ登場」に収録済み、つまりシングルカットだったのだ。
シングル・カット、アルバムで既に発表された曲をシングルで再リリースする形式で、CMやドラマのタイアップ時に行われることが多い。スピッツ空も飛べるはず」の大ヒットが有名である。しかしこういうのは例外で、それほど大きなチャートアクションが望めるものではないんである。だってもうアルバムででちゃってるんだから。
少年は知らなかった。まだインターネットも無い時代、田舎の中学生にとって唯一の情報源は「駅前のCD屋のフリーペーパー」である。ただただ「25日:スーパーソニックジェットボーイ/ザ・ハイロウズ」の文字を眺めて興奮していた。シングルカットのシステムなんて知りもしない。
で、この「スーパーソニック・・・」なんだが、タイアップは全く無し。メンバーは全員30過ぎ、キーボード白井幹夫に至っては団塊の世代である。そしてこのタイトル、脱力である。ついでに言うとサビはタイトルの連呼だ。まあこのダサさがカッコよさなんだが、中学生にわかるはずもないわな。かたや女子の紹介したレイジーナック、顔からしてアイドルだった。当時流行語みたいになっていた「元××の○○プロデュースによる○人ユニット」である。デビューシングルのプロモーションであちこちTVに出演していた。
勝負の結果は言うまでもなし。「スーパーソニックジェットボーイ」はCDTV50位以内はおろか、月に一度放送される「月間ベスト100」にも食い込めなかったのだ。失笑する同級生一同。

その後ハイロウズHEY!HEY!HEY!、PopJamと立て続けに出演した。裸に毛皮のジャケットでピョンピョン跳ね、舌をベロベロさせながら歌うヒロトのパフォーマンスに少年は興奮した。同級生は再び失笑した。その頃から少年は趣味をコソコソやるようになった・・・
あれから10年近く経つ。
ふとしたことで会話にレイジーナックの名が上った。
けれどもはやチャート競争ではなく「そんなのもあったなあ」というネタになっっていた。「ブルハ・ハイロウズファッショ」だった少年も今では春日八郎の「お富さん」をウードで弾き語る日々を送っている。時にレッチリ、時に河島英吾、明日はどっちだ?どっちでもいいや。
「青春は青臭いと読む」みたいなことをリリーさんが言ってた。昔の真剣さは火が出るほど恥ずかしい。あの女子はレイジーナックに憧れていたあの頃をどう思っているのだろう?マジで聞きたい。

ちなみに、ヒロトは今もロックンロールをやっている。「日曜日よりの使者」が件のアルバムのカップリングで出されていたことは余り知られていないかも。

スーパーソニック・ジェット・ボーイ

スーパーソニック・ジェット・ボーイ