尾が北向かなば

朝、ひどく喉が渇いて目を覚ました。腰が痛い、座席の突起部が寝ている間ずっと当たっていたらしい。外を見ようと身を起こしたらフロントガラスが曇っていた。
ここは白馬の道の駅。ゆうべは車の中で寝た。
便所で手と顔を洗い伸びをする。駐車場はキャンピングカー、ステーションワゴン、バイクで一杯である。どうも道の駅の駐車場で寝て旅をしている人は多いようだ。時間が経つにつれて車から人が出てくる、バイク横の寝袋が動き出す。
ブタンガスで湯を沸かして朝食をとる。キムチスープと珈琲。時間を見たら5時半だった。遠くは少し霞んでいるけれど今日も晴れるだろう、暑くなるだろう。体操をして出発。
夕べレコード店でCDを2枚買った。

London Calling

London Calling

SOUL電波

SOUL電波

夕べはずっと「SOUL電波」聴きながら運転したから今日は「London Calling」にしよう。
一路、海を目指して北へ。フォッサマグナが残した姫川沿いの谷を走る。次第次第に周りの山が低くなり、日差しで気温が上がってきた。

CDが一回転するかしないかのところで視界が開けた、日本海だ!
姫川河口に広がる石の浜辺に車を止めて波打ち際まで歩く。時間はまだ朝8時、遠くに釣り人が数人いるだけであとば海が広がるばかり。さ
っそく荷物を取り出して、あることを実行した。それは・・・

浜辺でウクレレ
さて、と。海まで来た、ウクレレも弾いた。時間はまだまだある、これからどうしようか。海に向かって考える、右に曲がれば新潟から東北へ、左に曲がれば富山だ。
左に行こう、寿司が食いたい、それから飛騨が見たい、白川郷へ行ってみよう。
一路、8号線を西へ。親不知の道の駅でホタテの串焼きを食い、魚津で水族館を見た。親子連れとアベックがこぞって水族館を訪れるこのシーズン、「大人一枚!」とチケット売り場で宣言するのはかなり勇気が必要だった。並んでる途中で帰ろうかとも思ったもの。それでも買った、大人一枚買った、恥ずかしさで真っ赤になった顔を下に向けながら。なんでこんな思いせねばいかんのか、水族館行くだけなのに。
アマゾンの巨大淡水魚や深海生物などを興味深く観察していると、珍しい魚に興奮したガキどもがごいごいと私と水槽の間に割り込んでくる。こらこら見えないだろ。仕方なく背伸びして見ようとすると別のガキが私の足を踏み、さらに別のガキが何故か全速力で体当たりを食らわしてきた。思わずよろける私。まったく躾のなってないガキンチョどもだ、London Callingのジャケ写みたいに地面へ叩きつけてやろうかと思ったが、何の特にもならないのでやめた。お父さん怖そうだったし。

水族館の外に出るとうだるような蒸し暑さだった。氷水でも買おうかと出店に寄ったが、「ファッション氷」という風俗みたいなネーミングにゲンナリしてやめた。
その後富山市で寿司を喰らった。ははは、うまうま。
8号をさらに進み、新港で左折、南へ。砺波、庄川、たいら、上平ささらと飛び石のように連なる道の駅で休みつつ、温泉にも入り、井戸で水を飲んだ。白川郷の道の駅へ着いた頃には18時をまわっていた。山を見上げると綺麗な夕日。

既に何台かのキャンピングカーが駐車していて夕食の準備をしていた。家族連れ、老夫婦、コーカソイド。私もブタンガスとコッフェルを取り出し夕食作りに取り掛かる。昼に腹いっぱい食ったし、日中水を沢山飲んだのでコーンスープだけにする。井戸で汲んできた水を沸かす。
闇が深くなり、風景がだんだん狭くなってきた。今日は一日中一人きりだった。家からは遠く離れているし、近くに住んでいる知り合いは誰もいない。みんな、どんなお盆休みを過ごしているのだろう?いや、数年来会っていない人たちはどんな人生送っているのだろう?というか私は今一人で旅をしているけれど、旅が終わったら何か変わるんだろうか?別に何かを変えたくて旅に出たわけではないから、結局何も変わらないんだろうか。そういえばUターンしてもう1年半になる。そういえば東京にいたころは旅に出たいなんて一度も思わなかった。旅を愉しむようになったのは戻ってきてからだ。何故だろう、東京にいるという状態は私にとって旅だったんだろうか。よくわからないなあ。あーあ、一人だなあ、真っ暗だなあ。
いたたまれなくなってきたのでウクレレを取り出して歌った。

私はちょうど悲しみの 真ん中あたりで泣いている
私はきっと喜びの 真っ只中で笑うんだ

気がついたら全身蚊に刺されていた。しまった、虫避け忘れてた。出来上がったコーンスープをかっ込み、車中で就寝。
まどろみ始めたところでプーンという音がした。しまった、中に入れてしまった。すっかり闇夜に包まれた道の駅、蚊の羽音がするたびに手足をじたばたさせて追っ払い、汗びっしょりの私、一人。