風船飛ばし

来月、10年ぶりにハスさんご夫妻のところへ行ってくる。
ハスさんご夫妻との出会いは16年前、サッカー大会の一環で飛ばした風船がご夫妻の裏庭の畑に舞い降りたのがきっかけだった。拾った当時既に仕事をリタイアされていたので、老後の楽しみに新しく外孫ができたような感じだったのではないだろうか。私は全くの筆不精で何年に一度かだけであったが、ご夫妻は時折手紙を送ってくださり、私の両親が返事していた。秋には畑で取れた芋がらを送ってくれた、それで私は芋がらの味噌汁と言うものを初めて食べた。うまかった。
10年前にお会いした時ご主人は既に80歳の高齢、しかしかくしゃくとした紳士で、起立して「ハスです」とご挨拶してくださった。言葉には教養の深さが随所に感じられた。でも運転はびっくりするほどスピード狂だった。
奥様も既に80近かったが凛として高貴。若い頃はどれほど美人だったのだろう。やはり育ちの良さを感じさせる人柄だった。
風船を拾った場所を見せてもらった。広い畑で、夏の風が涼しかった。
あれから10年。
私は相変わらず筆不精で3度ほどしか手紙を差し上げなかった。ご夫妻は時折手紙をくださったが、年を追うごとに老いに因る弱気な言葉が次第に多くなり、達筆だった文字も揺れるようになった。ついにはワープロになった。
ご主人は既に90歳、車椅子の生活だという。奥様も記憶が衰えてきているようだ。多分、会うのは今回が最後になると思う。
来月、会いに行く。