歩く仙人掌

チクリンというサボテンの一種を育てている。

とあるお祝いで贈物として貰ったもので、我が家に来てからこの春で5年になる。最初は握りこぶし大くらいだったのが、2度鉢植えを替えてご覧の通り大きくなった。傾いてはいるが元気である。
サボテンは砂漠に生える。乾ききった環境の下、年に数回降る雨と朝露をエネルギーにして生きている。水の無いときはひたすらに耐え、雨を待つ。耐えに耐えた末に水を得ると、それを体内にためて少しずつ利用し、生きる糧とする。そうやって人間よりも長く生きる。
「俺をサボテン扱いしないでくれ!」と、この一年間で何度か言った。何人かの人に言った。乾ききった植物にごくわずかの水を与えて、伸ばさず枯らさず。そんな風に私を扱わないでほしいと訴えたのである。
「わずかの水をひたすら待ち続けて、ちょっとだけ水をもらえたり優しい声を掛けられたりするとそれだけで有頂天ですくすく育つ。その後で水をもらえなくても、前に貰った水や言葉が懐かしいからひたすら待つばかり。そんなの、そんなの丸で庭のサボテンみたいじゃないか。俺はサボテンじゃないんだ。サボテンじゃないぞーっ」
何人かの人に真面目な顔で訴えた。笑われた。「サボテンにたとえるなんて、発想が面白いね」なんて感心されたりもした。体の棘で刺してやりたかったけど、私はサボテンではないのでできなかった。
さっき久しぶりにサボテンに水をやった。傾いたのはあまり世話をしなかったせいかなと思った。うまく世話すれば花が咲くらしく、事実貰ったときには花が咲いていた。けれどもその後は一度も咲くのを見ていない。ちゃんと世話しないといけないなあ、と思った。