山上のカフェ、酒場の豪気

朝日を浴びつつ霧訪山へ。
木の根を階段にしながら山道を登る。上がる息、笑う膝、早くなる鼓動。よくこんなところに道を作ったものだなあ。
なんでこんなことやってるだか、登っていてつらいと時々そう思ってしまう。けれど思ったところでここは山道、行くも帰るも自分の足一つだから歩くしかない。その感覚が気持ちいい。
一時間とちょっとで山頂へ。

360度の大パノラマ、音の無い景色。彼方に見える常念を仰ぎつつ、馬佐岡さんが準備してくれたコーヒーを沸かして飲む。温かい。火の灯った体に冷たい風がふきつけて心地いい。
「天国に無駄なお喋りは無い」
聖典クルアーンだったか預言者ムハンマドの伝承だったか、出典は定かではないけどイスラームの教えにそんな下りがあると読んだ覚えがある。肉体を酷使した後のコーヒーはただコーヒーであるというだけで満足だ。馬佐岡さんと「山はいいですね」という話をした。本当に、みんなもっと山へ来ればいいのに。
夜、関ゲルに誘ってもらって同級生との飲み会へ。
出席してるのは知った名前ばかりだったから気を置かず飲めるかと思っていた。ところが行ってみてびっくり、駆けつけでピッチャーのビールを一気しろと言われ、来るまできた関ゲルにも「ダイコーダイコー」といいつつ酒を注ぐ。とりあえず苦笑いをして場を盛り下げることでピッチャー一気を回避し、中ビンを関ゲルの前に置いてあたかも関ゲルが飲んでいるかのように見せつつチビチビやった。
しばらくしたらさらに人が増えた。同級生ではない人たちだった。離婚して子供引き取らせて最近再婚したとか、弟を鉄筋でぶん殴って眼底骨折させて逮捕された、これで前科三犯とかしゃべっている。一緒に学校に通っていた頃はおとなしかったT君が店員に向かい「おーねぇチャン、酒じゃんじゃん持ってきてじゃんじゃん。」なんて豪気なことを言い放っている。一気している。ちょっとつりあがった彼の眼それから太った頬を見て、「絶頂時の力道山はこんな感じだったのかな」なんて意味も無く考えた。「関ちゃんどうする?」「存在消しや」「そだね。ドライヴする?」「すりや」「そだね」タバコ買いに行くふりして逃亡。
コンビニで軽食を買って店じまいの済んだ地下道で食った。パートのおばさんが掃除のおじいさんに「あなたのせいで私帰れないじゃないの!」と怒っていた。おじいさんは無言で掃除していた。場末だった。
みんな、もっと山へ来ればいいのに。