生きている

今日が何の日か知っているだろうか?今日はジャイアント馬場が「クイズ世界はSHOW byショーバイ!」で早押しボタンを乱打した日である。ま、実際にはミリオンスロットボタンを間違えて押してたんだが。
朝、目覚めにふと、ああウクレレの弦を張り替えたいなあと思った。それは単なる思い付きというよりは我が生の切望、あたしは誰かの敷いたレールの上なんか歩きたくないの、もっと自分らしく、本当の自分になって生きていくの。そんなこと思うわけ無いのだが、考えたら休み無く働いたおかげで小銭も溜まったことだし、弦も古くなったしいっちょ買うだいね、ついでに寒いで、ジャンパーなんかも買おうかしら、なーんて思い、午前中から街のマーケットへ。
まずは楽器商店へ。マーチン製の弦を手に取る。カマカ、コアロハ、フェイマスと、弦は数多にあるけれど、マーチン弦こそおかしけれ。そんなわけでごれまでいろいろな弦を試してみたが、マーチン弦の音が一番いい。ウクレレをジャカジャカ引っかき鳴らすのにちょうどいいのだ、ギラギラしている。ギラギラ。土曜日はギンギラギン、月曜日はうんじゃらげ、である。日々是言いっぱなし。
マーチン弦片手に鉄の意志でレジへ向かう。楽器商店は誘惑がいっぱい、目移りしたら最後、数万の買い物をひょいっとしてしまいかねない、うっかりしてると弾けやしないのに篳篥や尺八を買ってしまい、家に帰ってからはたと困るなんてことになってしまうので、目的のものを見つけたらまっすぐレジへ向かうのが買い物時のあるべき姿である。目指せ本当の自分。だがウクレレ売り場からレジへの通路は今日も誘惑だらけ、"Rock Uke"やら"バスメロディオン"やら"かんから三線"やら、手ごろかつそそる楽器たちが動線上にさりげなく配置され「見て〜見て〜」「触って〜触って〜」と訴えかけてくる。一度目が合ったらなかなか逃げられない、まるで赤線地帯である。鉄の意志も解けてしまいそう。だがいかんいかん、今日は私はジャンパーを買うのだ。ジャンパーは高いから楽器を買ったら手銭が尽きてしまう。手銭がないとジャンパーはおろか、もしまるごとバナナを食べたいなあと思ったときまるごとバナナをかえなくなってしまう。いつ突然にまるごとバナナを食べたくなるかわかったものではないのだから、きちんとお金もっておかないといけない、備えあればうれ伊奈かっぺい。結果鉄の意志は溶解することなく、無事マーチン弦のみ購入して商店を出た。えらいぞ俺。
すぐ隣のジャンパー屋へ。へぇえいろいろなジャンパーがあるんだなあ、どれにしようかやあと思っていると店員らしきおにいちゃん「よかったら着てみてくださいね」うん、よかったのがあったら着てみるがよくなかったら着てみないよと言ってもよかったがそんなことをいうと屁理屈っぽいのでやめた。しばらく物色すると、おお、ブリロー親分みたいな皮ジャンパーがあるではないか。
Sneaking Suspicion
Down At The Doctors
4も5もなく買い物籠へ投入。
そのほか物色すると、どうやらジャンパー屋は多角経営を志しているようでTシャツ屋も兼ねており、今様なTシャツが丁寧に畳んである。どれどれ、おぉ、これは「無線衝突」シャツではないか。

Combat Rock

よしこれも購入しちゃえ、目指せなりたい自分!と思ったが、ぐぬぅ、Sサイズではないか。着られないではないか。泣く泣く諦める。今まで小学校で「ブタ」呼ばわりされたり、思いっきり痩せて見える角度で撮った写真を文通相手に送ったら返事が途絶えたりとデブであることに散々苦しめられた。だが今日ほど太っていることが悲しいと思ったことはこれまでにない。無線衝突が、無線衝突がぁ〜!!
悲しくなった私はジャンパーを買い終えるとそそくさと店を出た。弦とジャンパーを買っていい気分になるべきなのに、虚しくなった。ぬぬぬ。誰かにこの気持ちを電話で伝えたかったが、「もしもし」「もしもし」「どうしたの?」「いや」「ん?」「マーチン弦とジャンパーを買いに行ってマーチン弦とジャンパーを買ったんだけれど、Tシャツもいいのがあったんだわ、無線衝突が、でもデブなせいで無線衝突買えなかった。俺はどうしていいかわからないよ」こんな会話は相手に悪いなあと思ってやめた。結局虚しさだけが残った。
くそう、走ろう、山を走ろう。
小雨の振る中、車を山へ。舗装道路から未舗装の林道へ。ぬかるみ、薄霧、アップダウン。ガクンガクンとゆれながら坂は上り、谷は下り。ついには自分の運転で車酔い。霧は次第に濃くなり視界が狭まる。カーブミラーがあるから人の道なのだろうけど、落ち葉が轍を隠しているので時々不安。ガックンガックン。この車、けっこうオフロード走れるんだな。安定しないハンドルを握りながら、存在を感じた、生きてるなあと思った。