指示速度

まともな頭の持ち主ならば一度は疑問に思ったことがあると思う。なぜ、道路の指示速度はこんなにも低い設定なのか?時速40キロなんて、ノロノロ運転で渋滞してしまうじゃないか、と。
思うにあれは、動物特に猫を轢き殺さないための速度制限でなのではないか。
猫が道路を横断する際の動きはあまりに予想外であるために予測可能である。すなわち猫は道路を渡らんとする際まず車が迫っていることを確認し、確認したくせに明らかに危険なタイミングで横断する。どう考えても、車がスピードを緩めないと確実に轢かれるタイミングなのである。猫よお前は一体何を確認したというのだ?迷ったら止まる、これモータリゼーション社会の鉄則である。だのになぜ迷った上で横断する?というわけで「猫は絶対危険な横断を試みるものである」と予測していれば、道端でこちらを見ている猫を見た瞬間に足がブレーキへ向くのである。予測可能。
と猫を責めたいところだけれど、猫たちは人間社会の世知辛さや面倒くささはわからないし、そもそも人間のやってることなぞ気に留めず悠然として暮らしている様子である。責めても仕方ない。それに現代は動物愛護自然保護が資本主義のはらむ限界を暴き出し、結果そこいらの俳優よりもアニメのネズミや熊のがよっぽど稼ぎの多い時代である。我々人畜生が御猫様に気を遣わなければならぬ、いや気を遣って当たり前なのだ。だからこそ人間の視点からすると無謀な道路横断をする猫たちの命を護るため、我々人類は国道を時速40キロで走らなければならないのだ。
ところが世の中には心無い人がほんの少しだがいて、時速40キロのところを平気で48キロや55キロも出して走っている。結果として月に一度猫を轢き殺してしまっているのである。
この「月に一度」というのは確固たるデータだ。なぜなら私は通勤の路上、月に一度は轢き殺され無残に横たわる猫を目撃するからである。思うに、毎日すれ違う車のうちの一台が55キロで走っているのだろう。そして、その心無い運転者を捕まえ注意すればきっとこう言い返してくるだろう「なんだよ、時速数キロオーバーなら別に悪くないだろ?それに、みんなだって俺くらいのスピードは出してるじゃんかよ」言い訳無用!黙れ黙れこの横浜弁。「みんなだってやってる」って、小学生かお前は。だいたいね、お前以外のドライバー達はみな「なんでこんなに指示速度低いのかなあ、遅いなあ。でも猫を轢き殺してしまうくらいなら遅いほうがいいか」と思ってちゃんと指示速度を遵守しているのだ。どうだ参ったか。
というわけで指示速度はあんなに低く設定されているのである、多分。

本当に、誰かの可愛がっている猫を轢いてしまうくらいならゆっくり運転したい、と思う。