イソくん

このところ同級生や高校の先輩後輩、あるいは出自の近い人に会うことが多い。あの人はどうしているのかなあと話すことが増えるわけだが、一番気になっているのはイソくんのこと。
イソくんの家はお寿司屋さんだった。とっても威勢がいいお父さんが大将で、お寿司を食べに行くとジュースをタダで出してくれた。
お母さんは優しい人だった。初めて遊びに行ったとき、私が緊張して家に入れず、勝手口でウロウロしていたらニコニコしながら「いらっしゃい」と招き入れてくれた。
一頃、毎日イソくんの家に遊びに行った。ファミコンやったりプラモデル作ったり虫取りしたり。時々稽古事をサボってまで遊びに行ってしまい、ママタブに折檻された。イソくんと遊ぶのはとっても楽しかった。
イソくんも私の家に遊びに来てくれて、その度に背負えるだけの寿司飯を持ってきてくれた。折檻者ママタブは今でも「イソくはいっつも寿司飯背負ってきてくれた」と懐かしそうに語る。

イソくんの夢はお寿司屋さんになることだった。修行して、お父さんのようなお寿司屋さんになるんだと言っていた。

その後、わけあって寿司屋は無くなってしまった。イソくんの家は引っ越して、別の寿司屋が入った。その後イソくんがどうしているかは、あまり知らない。

ファミコンで遊んだ頃から随分と長い時間が経った。イソくんは修行しているのだろうか。寿司飯を炊いているのだろうか。

願わくば食べたし磯の香る寿司。倅と共にくぐる暖簾。その先には立派な大将になったイソくん。お寿司を食べて、お金を払う。伝票なんかいらないよ、いくらだい?いやあそれは少なすぎるよ。倅は、イソくんの子供とファミコンしている。ああ、そんな風景の中に身を置きたい。

イソくん、元気か?