人間の証明

夕方あぜ道を東へ歩いていると、南北にのびるアスファルトの道に群集が行進している。どうやらデモ行進のようなものをしているようで、何かをどこかへ訴えるために歩を進めているようだ。近づいてみると群集はハンセン病患者の方々であった。
患者の方々はそれぞれにのぼりのようなものを立てて先へ進む。私の存在に気づくと一人がこちらへやってきて言った。
「どうぞ、よろしくお願いします」
そう言って両手を差し出してくる、すこしためらっていると今度は
「大丈夫ですよ。空気感染はしませんから」
と言う。ああそうだった、と、松本清張の『砂の器』とその映画(ドラマじゃない方)を思い出し、がっちりと握手。患者の方はその後いくつか希望をおっしゃっていた。
群集と別れるとあたりがぐっと暗くなり、目を開けると、自分の寝床だった。寒い、関節が痛い、のどが痛い。風邪である。
ここで一瞬「夢の中で握手なんかしたから」と思ってしまった。口ではハンセン病患者の解放に賛同、理解を深めたいなんて言いながら、その実あの病気にどこか恐怖も差別心もある腹の底。そんな自分につくづく嫌気が差し、会社を休もうかと思った。
だが、最終的には出社した。なぜかというと、嫌気が差したすぐ後で思うには、待てよ、昨日は課内の飲み会があって、出し物で長州小力の物まねをやったんだっけ。しかも東急ハンズで買った「小力変身コスチューム」を着てたっけ。あれ、6000円もしたんだよな。そんでワールドカップ見て。あれだけはしゃいで今日休んだら、俺、社会人として終わってるな・・・というわけで着替えをし、食欲のないまま豆ひじきを腹にかっこみ、ジキナを飲んで家を出たのである。いつもの通り仕事が終わるまで残業し、家路についた。