探訪!香港グランプリ

わけあって香港へ行く機会を得た。中国側の国境を歩いて渡り、近代的な電車に乗る。車中、昔のロナウドみたいな髪型をしている稚児を見る。この辺のコンボコはみんなこんな頭をするの?とガイドしてくれた台湾の友人に聞くと、「いやあ、初めてみた」と可笑しさこらえられない様子。
液晶が日本の景気回復を伝えている。一路、尖沙咀(チムサアチョイ)へ。
彌敦道(ネイザンロード)をスポーツカーで、と行きたいところだけど、そういう贅沢品は持っていないので徒歩で。交差点で信号待ちしていたら、目の前を黒塗りのBMWがスイーッと走っていく。中から出てきたのは漢民族のおじさん。ピシッとスーツ、高そうな時計エナメルの靴、ダンディな眼鏡にモトローラの携帯、髪はカッチリYokowake。いかにも実業家といった風情、金持ちらしい金持ちが、金持ちらしい振る舞いをしている。そのYokowakeさんの横と脇を通り過ぎる人たち、ファッションモデルのアイリーンみたいに垢抜けた女性、アングロサクソン人、マレー系、インド系、中国系、日本のサラリーマン。原色の風景、一通り今宵の豪遊を終えた勝新太郎が、余った金を道で合う人一人一人に手渡ししていく、そんな風景がよく似合う、いうならばインターナショナルな昭和。びっくりするぐらいひしめいている香港島のビル、その合間合間にはせせり出す看板、ブランド街と薄暗い路地。仁丹味の亀甲羅ゼリーにたっぷりシロップをかけながら思った。
「この街、おもしれぇ」
ジャッキーチェンの手形を見て、船で香港島へ。高いビルと港の埠頭、横浜のシーバスを思い出す。ああそうか、CKBは港町が好きなんだなあなんて思っているうち到着。観光らしい観光をして、帰りはバス。レパルスベイには行かずじまいだけど、まあ次の機会だ。海底トンネルを北へ向かう。そこでぼんやりと思った。
でっかいアメ車に美人を乗せて、タイトなスーツあるいは皮ジャンで、靴は白い革靴、髭を生やして目にはサングラス、髪は何故かヨコワケなんだけど、そこにダサさは微塵も無く、むしろ「カッコいいだろ。な!な!」という妙な説得力というか圧迫というか意味の無さというか、そんな風情の生き方に憧れる時期が男にはある。でもサラリーマンだし結婚したし親の介護も準備したいし禁煙中だし日経新聞高いし、そもそも、今の日本じゃ女性に尽くす優しい男じゃないと非国民みたいな扱いを受けるから、憧れのダンディズムやニヒリズムはぐっと押し殺して生きるわけである。
香港の街並みはそんな憧れを再燃させてくれる。実際の香港の人々がどうしているかということとは別に、何故かゴージャスなことができそうな気がする街。そんな気がした。
海底トンネルが終わり九龍に戻ってきた。かつてマカオの暴走野郎のムスタングが真ィ横に並んだ料金所は、ETCでノンストップになっていた。

クレイジーケンバンド・ベスト Oldies but Goodies(通常盤)

クレイジーケンバンド・ベスト Oldies but Goodies(通常盤)