JAMおじさんと丁稚と契約社員

さあ、僕の顔をお食べ!

なぜか劇場版のアンパンマンをテレビで見てしまった。相変わらずすごい強さだ。アンパンマンじゃなくてジャムおじさんが。
アニメ化以前の絵本の世界において、ジャムおじさんは単なる「ジャムおじさん」だった。具体的に言うと、森の中の小さなパン工場を一人で営む髭のおじさんだったのである。当時、この物語におけるヒーローはあくまでアンパンマンであった。弱者と見るやすぐに顔面を食料として提供する心やさしきヒーロー、アンパンマン(助けた子に「もう大丈夫だよ」と言いつつ首なしで飛んでいく姿は子供心にかなりグロテスクだった)。当時のジャムおじさんは、そんな彼に人面アンパンを作ってあげる役割を担っていたのみであった。簡単にまとめるとアンパンマン=ヒーローであり、ジャムおじさんアンパンマンのサポート役であったのである。
だがアニメ化を遂げたあたりからこうした二人の関係に変化が生じる。まずアンパンマンであるが、毎週行われるようになったバイキンマン(愉快犯嗜好症)との戦いを通じて、次第に弱点が明らかになってくる。アンパンマンの弱点、それは彼の存在意義とも言うべき「人面アンパン」の部分、つまり顔であった。
いうまでも無く、アンパンマンの顔はパンでできている。パンと言うのは水に浸せばふやけ、湿気の多いところではカビを吹き、極度に乾燥すればカチカチになってしまう。つまりデリケートな食品なのである。そんなデリケートな食品でできている顔を持つアンパンマンなのだが、あろうことかその顔が全身の動力源なのだ。そのため顔に少しでもダメージを追うと全身が倦怠感で覆われてしまうらしい。しかも異常なほど敏感である。「顔が濡れて力が出ない」「カビで力が出ない」「パサパサで力が出ない」などはまだしも「顔が汚れて力が出ない」とまで言いだす始末。お前は叶姉妹か。また顔が動力源であるために、他人に顔を分け与えると戦闘能力が格段に落ちてしまうのである。昔は首なしで飛び回っていたのに。
そんなわけでバイキンマンアンパンマンの顔が欠けている時を狙って、カビルンルン(カビのミュータント)やホースでの放水、単なる汚れなどで顔を攻撃する。ガス欠ならぬ餡欠のアンパンマンは例によって「○○で力が出ない〜」と言い分けしつつヘナヘナと落下してしまう。ピンチ、人面アンパン!
バイキンマン「ハーハハーハーヒフーヘホー!アンパンマン!とどめだー・・・ん?な!なんだあれは!!」ゴゴゴゴゴゴ
と、ここで現れるのが人面アンパンの巨大な動くハリボテ車両である。アンパンマンを蹂躙したバイキンマンの攻撃をもろともせず武器で反撃し、あっという間に形勢逆転。頭頂部のハッチが開かれジャムおじさん登場。傍らには少し前から住み込みで修行中の少女バタ子、飼い始めたばかりの番犬チーズ、チーズの手には新しい人面アンパンが。ジャムおじさんがかすれ声で叫ぶ。
アンパンマン、新しい顔だよ!」
ひゃうどっ!と新しい「顔」を投げるバタ子、顔はアンパンマンの頭部を直撃し、古い「顔」を吹き飛ばし、アンパンマンの首の上で約10回転して固定される(ねじ式か?)。アンパンマン、電池交換完了。
「元気100倍、アンパンマン!」
で、必殺アンパンチをバイキンマンに食らわし勝利である。悪役による弱点攻撃→正義の味方ピンチ→お決まりのターニングポイント→正義の味方が無敵に→お馴染みの必殺技でフィニッシュ。って、ハルク・ホーガンのプロレスみたいな展開だが、終わりよければ全て良し。勧善懲悪、一件落着。
それで考察である。アニメ化されてからというもの、ジャムおじさんが異常に強くなっているのではないか。
先ほどの動く人面アンパン車両は「アンパンマン号」という。驚くべきことに、これはジャムおじさんが一から設計し作ったものらしい。しかも戦いを重ねる都度パワーアップされているようで、初めは鼻によるパンチ攻撃しかできなかった(これでも十分すごい)のが、やがて火炎放射したり地中を掘って進んだりするようになった。驚くべきことは、こうしたバージョンアップもジャムおじさんが1人でやっているらしいということだ。アニメ中、溶接にいそしむジャムおじさんの姿が何度も目撃されている。
そういえばおかしいと思っていた。なんでジャムおじさんパン工場は人里離れた森の中にあるのか。別に田舎なんだから集落の端っこあたりで十分なのに。答えはあのアンパンマン号にあったのだ。あれだけのものを1から作るには相当な量の鉄を精製しなければならない。精製した後には溶接や板金をせねばならず、そこで大きな騒音が生じる。有害な薬品も多く使うだろう。そんなところに一般住民を近寄らせては危険である。いや、もしかしたら一般住民のほうから避けているのかもしれない。何せアンパンマンとか言うパンのミュータントと人語をボノボ以上に理解する犬が住み着いている工場である。ひょっとしてアンパンマン号の動力源は原子力なのではないか?アンパンマンは宇宙から降ってきたっていう設定だけど、実際は放射線による突然変異体なのではないか?バタ子さんが成長しないのもおかしい。煙突が鉄工所並に高いのもおかしい。あのパン工場、おかしいことだらけである。ジャムおじさん、表では善良なパン職人を装っているが、裏では原子力を許可なく扱うマッドサイエンティストなんではないか?
アニメ化以後のアンパンマンは「ジャムおじさんのシモベ」になってしまったのである。アンパンマンは自分の意志とは関係なく生まれ、首をとっかえひっかえ戦わされつづけるプロレタリアートなのだ。戦いたくなんか無い。だから顔が汚れただけで弱音を吐く。勝手な解釈だけど。
さて、ここでもうひとつの疑問が浮かんでくる。ジャムおじさんは町の人々に毎日パンを製造していると言うことになっているのだが、彼が大量にパンを作っているところなど見たことが無い。作っいても大抵はアンパンマンをはじめとするミュータントの顔だ。稀に普通のパンの時もあるが、鼻歌交じりで20個くらいしか焼いてない。バタ子さんも、パンの修行と言うより溶接のOJT研修を受けている感じである。あれじゃあ町の人全員にパンが行き届くはずが無い。一体どうやって大量のパンを作っているのか?
答えはここにあった↓
http://www.torihada.com/profile.htm
鳥肌実 42歳厄年。職業に「パン工場勤務」とある。自己紹介で彼はこんなことを言う

「朝の8時から朝の8時までパン工場に勤務・・・」

「株式会社山崎パン、サンドイッチ班班長、ピクルス担当。ああ・・・単純作業のお出ましだ。巨大なジャムパンが攻めて来る。嫌いなパンはないんだよ。」

「・・俺はなあ、契約社員なんだよ。アルバイトじゃないんだよ。年下のくせにアゴで使いやがって・・・

そう、ジャムおじさんの工場は山崎パン系列なのだ。そして鳥肌実契約社員として雇い、正社員のバタ子さんの下で24時間働かせつづけているのだ。「巨大なジャムパン」が何を意味するかは、もはや言うまでも無い。そしてバタ子さんも修行のために住み込みで働いているのではない。24時間業務管理をしているのだ。恐るべし、ジャムおじさん。おじさんなんて呼んでいていいのだろうか。
やなせ先生!アニメのエスカレーションを止めてください!そしてアンパンマン鳥肌実を救ってください!僕らはみんな生きてるんです

あんぱんまん (キンダーおはなしえほん傑作選 8)

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