カレーライスにすらかなわない

昼前、便所から事務所へ帰ってきて面食らった。私のデスクの近くにはちょっとした打ち合わせスペースがあるのだが、そこが20代の茶髪の女性たちに占領されていて、しかも輪の中心には男性が一人おり、まるでドン小西のような風体であったからである。地方の製造事業所には明らかに場違いな風景であった。
ドギマギした私はそそくさと自席に戻り、近くにいた新人のみーさんに話しかけた。
巻き「ねえねえ」
みー「あ、おつかれさまです」
巻き「あれ、なんですか、あの会議」
みー「え、どれですか?」
巻き「そこのあれ」
みー「あ、打ち合わせスペース使われてますね、どうかしたんですか?」
巻き「すごくないかあれ?」
みー「え?」
巻き「どうなってるんですかこれは、ここは109ですか?」
みー「え、どういうことですか?」
巻き「・・んっと・・だから、ここはラフォーレですか?」
みー「あの、巻きタブさん」
巻き「ん?」
みー「109とかラフォーレって、何ですか?」
あまりの会話の空回りっぷりに自己嫌悪に陥った私はカレーライスをかっ喰らいたい気分になり、食堂へ走った。
食堂は人でごった返していた。人をかきわけかきわけ献立を見ると今日は特別な日らしく「南インドカレー」なる商品が出ているではないか。私は嬉々としてカレーの配膳を待つ列へ並んだ。
待つこと数分、あと2人待てば南インドカレーにありつける、よーしいいぞ。ところがである、2人のうち一人にカレーが盛られ、さああと一人となったところで配膳の兄さんが苦しそうな声で私に言った。
兄さん「あっ・・・あああーっ、カレーの方?」
巻き「そうです」
兄さん「あっ・・・あああーっ、すっ、すっ、すーっ・・・」
巻き「あれっ?カレー終わり??」
兄さん「そ、そぅす、すみません、すーっ・・・」
カレーが欠品になった焦りのためか、兄さんの口からは二酸化炭素がすーすーと漏れていた。私はカレー欠品だけで酸欠を起こしかけている兄さんが可愛そうに思えてきたのでカレーをやめ、他の献立を選んだ。
席に座り食べようとしたところ、先輩社員のリーさんが「ごめんね遅くなっちゃって」なんていいながら正面に座った。まあいいですよ、そんな会話を交わす最中にリーさんの食事を見たところ、驚愕した。リーさんのお盆には南インドカレーがどっかと座っていたのである。
巻き「あれっ、カレー」
リー「どうしたの?」
巻き「いや・・食堂でまだ余ってたのですか?」
リー「普通に売ってましたよ」
巻き「はうあっ!」
なんということだ、欠品したのは私の時だけで、後に来たリーさんの時には既にルーが補填されていたのである。
カラーライスごときに苦しめられるとは!
憤然となった私は食堂の外飛び出し「クロマニヨン・ストンプを歌おうと思ったが、寒いからやめた。昼食とはいえ仕事中だし。

ああ、カレーライス・・・