盆カレー

明日より盂蘭盆であるが当方諸事情により本日墓参した。昼に庭の草むしりをしたところ直射日光で汗びっしょりとなったので入浴。こざっぱりとして墓へ向かう。
驚愕した。
墓への道が渋滞しているではないか。前も後ろも車、車、車。はてさて拙宅の菩提寺はこれほど檀家を抱えていただろうか。否、菩提寺は何の変哲も無い真言宗の一寺である。本山でもなければ玄侑宗久瀬戸内寂聴のような作家僧侶がいるわけでもない。渋滞は菩提寺が目的ではあるまい、はてさて一体何が目当てだろうか。よくよく車を観察した結果、どうやら車たちは土地の名所・史跡を目指しているようだ。ナンバープレートは県外のものが圧倒的に多い。
なんたる破戒、なんたる不信心。盂蘭盆は祖先の霊を家に迎える大事な時期である。霊達はこの時期を楽しみに待っているし、地獄側でも気を遣って釜茹で用の釜の蓋を開けていてくれている。だのに何なのだこの観光気分は。やれスタンプラリーだ、やれ花火大会だ、やれソフトクリーム食いたいだ、全くいい加減にしないか!憤然とした私は観光客の車に汚い言葉を(聞かれて怒られると怖いので窓を閉めて小声で)罵り、地元住民しかしらない小路・抜け道をぐんぐんと2速通行し菩提寺へたどり着いた。
到着が予定より遅れたため、墓地には既に夕凪が吹き始めていた。私は汗を拭き拭きしながら桶に水を汲み、小脇に菊の花を抱えて墓地へと赴く。
墓石に水をかける。最近真夏日に喉カラカラで出歩くことが何度かあったので水のありがたみを切に感じる。墓に水をかけることの意味はよくわからんが、水被ったら気持ちいいよなあ、と思う。
カンバと線香を焚かんと思いマッチに火をつける。カンバの側に炎を近づけていざ点火!と思ったら火は白い煙を上げて消えてしまった。
夕凪のせいだ。墓地には石が立てに並んでいるから、都会のビル風のような現象が起こる。外ではふわふわと吹いていた夕凪も、墓地では十分火を消せる風力を持つ。それでも何度か点火を試みたが、都度風に火を消されてしまった。
はてさて困った火がつかぬ。しかしとて線香あげずに帰るわけにはいかないしなあ。ここは一計を案じねば。というわけで考えた。まずカンバを丸めて筒状にする。その中にまだ擦っていないマッチを何本か入れ、ここに火のついたマッチをすばやく投げ込む。そうすれば入れておいたマッチに火が付き、カンバは強い風など意に介せず燃え上がるだろう。ははは、名案名案、偉いぞ俺。
さっそく作戦実行。擦ったマッチをカンバの中に落とすと、じゅわっ。全てのマッチに火が付きカンバが燃え始めた。よしよし、これで残ったカンバと線香に火をつけて、と・・・・うわっちゃっちゃっちゃっ!!!
誤算である。カンバの中に入れたマッチが大量だったため、炎が予想以上に燃え上がってしまった。結果、火の手があまりに強いために残りのカンバおよび線香に火を移せない。
私は諦めず火を移そうとするが、できない、熱い。トライ&エラーを繰り返すたびに指に火がかかり、毎回毎回「うわちっ!」「あちゃちゃっ!」と奇声を上げた。墓参りに来ていた家族が私を遠巻きに見ていた。何か気まずいのでとりあえず一礼。横を見ると作務衣来た禿頭が呆れ顔で見ている。なんだこのおっさんは?とよく見れば住職だった。ここでも一礼。

お盆前日、墓場で火を扱いきれず奇声を発した、火は熱かった、みんな呆れ顔で見ていた。笑ってくれる人はいなかった。一人で墓に来たから。
悲しい気分になったので帰ってトマトたっぷりのカレーライスを作った。青島ビールを飲みながら三杯食べた。腹いっぱいである、南無南無。汗びっしょり。