ミサイルあべし駐車場

警備会社らしき車がアイドリングしているのを横目に、俺たちは一路駐車場へ向かう。悶々さんは聞き手の役割を果たし、聞き手であることに疲れきっている。関ゲルは明朝、カノッサのバイクを整備しなくちゃならない。俺はというと久しぶりに会ったナマちゃんの巨乳で頭がいっぱい。闇が白やみ、酔いも覚め行く夜明け4時、もはや頭も呂律も怪しい。誰が言うでもなく足を駐車場に向けようとしたその時、
給食センター行きてぇな」
悶々さん、関ゲル、俺の3人は働かなくなった頭で声のする方を見た。そこに立つはあべし。うぇへへへ、ちょっちょっちょ、うぇへへへ。また別のところ行くのですか、本当にもう勘弁してくださいまし。あべしに向かい、俺たちは口々に気のつく限りの反対意見を言った。新聞配達のバイクが横を通り過ぎる。
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駐車場。
夕方、銀行の駐車場に悶々さんがいた。悶々さんは俺の車より前に、誰かがいるのに気づいた様子。同じ時間に待ち合わせしたシャミにゃんである。夕方18時、同窓会に向かう。悶々さん助手席、シャミにゃん後部、あいつとあいつが結婚した、あの先生はどうしている、だれ某は来るのか、お前は結婚しないのか、云々。どこにでもある同級生の会話。後部座席のシャミにゃんは身を乗り出して話してくるので、左後方の安全確認をしようとすると思いっきり視界に入る。ええい邪魔だ、おとなしくしてないか、さもないと犯すぞ、こちょこちょするぞ、おらおら。と言おうと思ったけど、やめた。そろそろ分別のある、思慮深い大人にならなくてはね。赤信号で振り返り、まじまじと顔を見つめた後で微笑み、
「シャミにゃん、変わらないね」
「何お前、気持ち悪い。半笑い」
やっぱりこちょこちょの刑にしとけばよかった。会場着。

集まったのは60人くらい。昔を懐かしみながら近況を話し、来れなかった同級生の噂をする。話すうちにわかってきたが、どうやら今日来てるのは男も女も独身者、来ていないのは既婚者子持ち。そうかそうか、やっぱり家庭かあ、いいなあ、と口々に皆が言うので、しんみりしてしまった。
一緒に勉強していたころはほとんど会話しなかった人が、今日は不思議なほど絡んでくる。話しかけられたとき「顔は思い出したけど名前が思い出せない」人が相手ならまだなんとなく話ができるのだけど「顔も名前も覚えてない人で、名前をいわれてもどんな人かあんまり覚えてない」人というのもいて、困ったことにそういう人に話しかけられるんである。言ってることの意味が皆目検討つかない中、「あーあーそうだったねえ、懐かしいね」などと言わざるを得ない状況。こんなことが発生してしまうのが同窓会の常なのか。

二次会、自分の車では帰らないことに決め、べろんべろんと飲むことにした。べろんべろん。そこで目の前にナマちゃんが座った。話の内容に新たな発見はなかった。でも重大な発見があった。知り合ってからもう20年、今日、はじめて気づいた。
ナマちゃんは巨乳だったのだ。
人間、面と向かって話をすると、今まで気づかなかった相手の特徴に気づくものなのである。ナマちゃんは俺に対して新たな発見があったのだろうか。て、まあこっちは「面と向かって」いたというか、性格には乳に向かってたわけですが。べろんべろんとボインボインでおかしくなった俺はひたすらナマちゃんに「結婚してください」と迫った。アピールポイントはたった一つ「俺、貯金あるよ。」ナマちゃんはやれやれという顔で、つまり女が男どものガキっぷりを見て「まったくしょうがないわねえ男は、エヘヘ」という顔をして、言った、「いいよ」。
すげーすげーすげー。貯金ってすげー。
(つづく)